密・リターンズ
”端島密先生は本当にいい先生でした..少なくとも私 星崎理都にとっては..”

第1話「さらば端島密!」

都立府浦高等学校、教室。女性の先生が入って来る。
理都「あのっ!しっしずかに..してくだ..さいっ」静かになる教室。
生徒「星崎じゃん」「ほらみろ」「いくらなんでも騒ぎすぎだって」
理都「他の教室は授業中です!この教室はなんの授業ですか!?先生は?」
生徒「端島先生ですけど..生物です」

校舎裏。端島「ほーらもっと食え。ここなら敵はこねーからな」
とネコにエサをやっているのを理都が見つける。
「あっいた。端島先生!」
端島「ん?なんだ理都か」おびえるネコ。
理都「なにしてるんですかこんなところで!」
端島「こらこわがるな、敵じゃねえよ」
理都「先生!ネコにかまってる場合じゃないでしょう!授業始まってるんですよ」
端島「まあ待て理都。深手を負って死にかけてたんだ
手当てしてエサをやるくらいいーじゃねーか。見殺しにすると呪われるぞう」
理都「私はそういう非科学的な事は一切信じない主義なんです」
端島「教科書女ー。ま、いーや。呪われるってのは冗談にしても
俺は何かしてやれるのに何にもせずに見殺しにするのは嫌なんだ。
おめーだって目の前でおぼれてる奴がいたら手をさしのべるだろ」
理都「そ、そりゃあ...(はっ)と..とにかく!早く教室に入って下さい
もうエサは食べたんでしょう!」

廊下。端島「時々エサもってってやらねーと..まだ自力でとれねーんだ
内緒にしといてくれよ、あいつの事。な、理都」
理都「どうせ先生以外の人が近付いても隠れて出てきませんよ。
..ところで先生。いいかげん私の事学校内で呼び捨てにするのやめてください
いつまでも「先生の生徒」じゃないんですから!」去る理都。
端島が生徒達に「ちこくだー」とからかわれている。

理都の教室。”そう私はもう生徒じゃない。私が先生の生徒だったのは
7年前。それもたった二週間のことだった”

7年前、町なか。理都(とうとうやってしまった..学校をさぼるなんて..
でもどうしても最後にもういちど見に行きたかったのよ..)
化石展のチケットを見る学生時代の理都。
(バレたら怒られるだろうなあ。お母さんなんか泣いちゃうかもしれない
「うちの子が不良になった」って。でも何とかバレなければ..
制服じゃないしフツーにしてれば補導されるような事はないわ!よし!)
肩に手を当てられドキっとする理都。
端島「おまえ2組の星崎理都だよな。私服でどこ行くんだ?
学校もう始まってるぜ。ん?まだ俺の顔覚えてねーか?
先週から教育実習に来てる端島だよ、端島!
ま、いーや。俺も遅刻だからえらそーな事はいえんが
サボリだけはやめろよ」泣きだす理都。端島「お、おい」

公園。理都「ごめんなさい先生..でも先生に話を最後まで聞いてもらえて
すっきりしました。じゃ、私着がえたら学校へ行きますから..」
端島「おいーマジかよう」「え?」
端島「学校なんかサボっちまえ!行こうぜ『化石展』!」「へ?」
「お前みたいなマジメっ子が学校サボるなんて決死のカクゴだったろ
それほどまでに好きなものをあきらめるテがあるかよ。
行け!おれが許す!」「で、でも...」
「俺も遅刻ついでだ!教師同伴なら補導はされまい!」

化石展。巨大なアンモナイトに感動して理都が端島に熱弁してる内に
観衆が出来て拍手までおこる。
端島「理都、おまえ教師になれよ」「えっ?」
「おまえの授業なんだかおもしれーし、いーんじゃねーかあ?」
理都「ほ、本当ですか!?」端島「おう」
「なります!私先生になります!」
「じゃあ俺が生徒第1号だな」
”それで私は本当に教師を目指した”回想が終わる。

(なのに..「教師になれ」なんて言った張本人がいつまでも私を生徒扱い..
先生にとって私は..どこまでいっても生徒なんですか..?)
端島「理都」廊下でぶつかる2人。「あいたっ」
端島「放課後あいてるか?」「あ..あいてますけど..なんです?」
「帰りにちょっとつきあってくれ。大事な用がある」「えっ」
「5時な」「あ、な..なんですか大事な用って」「くればわかる」

町、昼間。理都(大事な用って..いったい..もしかして..プロポーズ..
なんて..まさか先生がそんな風に私を見てくれてるかしら..)
理都「先生、あっいない!」
街角の坊主「おぬしには死相が出ておる」と端島に。
理都「先生!そんな占いなんかきいてないで!」と引っ張り去る。

「一体大事な用ってなんですか?」古い店。「?」端島「ここだ」
理都「く、クモの巣とかはってますよ、営業してるんですか?」
端島「こーゆー店の方が結構掘り出し物あるもんなんだぜ」
理都(..こんな店に、いったい何が..?)
端島「理都」「!」巨大なアンモナイトの化石が有る。「これは..」
端島「時価100万。先週競馬ででかいの当ててなあ
アンモナイトー古生代から中生代に栄え約6千万年前に絶滅した
頭足類の軟体動物だ。はじめに発見された頃は羊か何かの角の化石と
思われたんだよな。俺がいっちばんくわしい化石だ。
理都の最初の授業で教わったからな」理都「あっ」
(私の最初の授業(化石展)..あんな事先生は忘れてると思ってたのに)

町の橋の上、夜。端島「あの店でこいつを見つけた時決めたんだ
絶対理都に買ってやろうってな。受けとれ理都、指輪のかわりだ」
化石を渡す端島。受け取る理都
理都「えっ..ちょっ..重いです、せ、先生」
「そーっとだ!そーっとこっちへ渡せ!わかるよな”指輪がわり”って意味
ひらべったく言いなおすとつまりけっこ..」
理都「言いなおさないでください。..私..」端島「理都」
理都「先生〜〜(泣く)」「バ、バカ!泣くなよ、んな所で!」
「すいません..でも」端島が頭をなでて笑顔になる2人。

突然「たいへんだ!」「誰かあそこでおぼれてるぞ!
すごい勢いで流されてる!」と声。2人の足下の川で少年が!
端島「いけねえ!」理都「せ..先生!やめて下さい!ゆうべの大雨で増水
してるんです!危ないですよっ!水も冷たいし!救助隊に任せましょう!
それに先生確か泳げな..」端島「なんとかならあ!」川に飛び込む!
理都「先生!!先生ーーーーーっ!!」
端島(うわやべぇ!ちょっとシャレにならんぞこいつぁ
むこーのやつも死んだなこりゃ プロポーズしたばっかなのに..
なんてこった 死ぬのかあ...)

町で会った占いの坊主のアップ。「気分はどうじゃ?」
端島?「ぎゃああああああああああああ!
おええ」坊主「起きるなり騒がしい男じゃ!」場所は川原。
端島?「マウスツーマウスしたろあんた!ショック死したらどーすんだ!」
坊主「助けてやったのになんちゅう言いぐさじゃ!」
端島?「ん!?助かったのか、俺!そーか助かったのか俺は..ん?」
捨ててあった鏡には高校生の少年の姿が映る。
端島?「おい!なんだよこれ!」
坊主「最近この川原に粗大ゴミを捨てていく者がおってのー
困ったもんじゃ」「じゃねーよ!うつってんのは何だっつってんだよ!!」

端島の心の少年「魂をうつしかえただとォ!?
坊主「そう!お主は一度死んだのじゃ!じゃから街で会った時
わしが忠告したのに..」少年「うつしかえたーってどうやって!?
とその前に誰なんだこいつ(自分)?」
坊主「おぬしが川に飛び込んで助けようとした男じゃ
”その男もう助からぬと思いあきらめたのじゃな..とうに魂が去っておった”
身体はわりかし無事じゃったのにのう。時たまそういう事が有るのじゃ」
少年「じゃあ、あいつどの道助からなかったのか..」「..まあそうじゃ
言っては何じゃが見ず知らずの者のために、おぬしムダ死にじゃった
かもなあ」少年「ムダ死にじゃねーよ。俺はこーして生きてるしな
それに..あのまま見過ごす方が俺はいやだ」

川原。坊主「わしの名は寅午(トラウマ)。かつてチベットの奥地で
様々な”術”を学んだ事があってのーその修行というのが..」
少年「まてまてまて」「?なんじゃ?」「よーするに
そのチベットだかどこだかで修行して身につけたあやしげな術で
俺を生きかえらせてくれた..と、こー言いたいんだろ?」
坊主「う..む早く言うとそういう事なのじゃが..言うに事欠いて
あやしげな術とは失礼なやつじゃ」「長々とあんたの修行話とか
聞かされてもな。ま、いーや。とりあえず事情は飲み込めた。
じゃあな、じーさん」「待て!どこへ行く」
少年「早く理都に知らせてやらねーとな。あいつ心配してるかも
知れねぇ」坊主「ま..待て!それはダメじゃ!」
「何だと?修行話聞くまで行かせねーつもりか!」「ちがうわ!
大切な話じゃ、よく聞け。その身体はおぬしにとって他人ゆえ
絆が薄い。だからもしお主が「端島密」である事が他人に知れたら
その肉体と魂のつながりは完全に絶たれてしまうのじゃ」
少年「よーするに死んじまうってことか!?じゃあ理都に
無事を知らせる訳にゃいかねーか、いや待てよ、あんたが
知っちゃってんのはOKなのか?ヘンじゃねーか」
坊主「わしは”術者”じゃから例外じゃ!」

坊主「『りと』というのは恋人か」「プロポーズしたばっかだよ!」
坊主「..気の毒じゃが、お主はこれから他人の人生を生きてゆかねばならん
かつての恋人に会っても名乗る事は出来んのじゃ」
少年「冗談じゃねーよ!他人の人生なんて!」
坊主「お主は元々死んでおった。術を解けば..」「死ぬのなし!」
「ならば別の術で記憶を消そう。なまじ恋人の事を覚えておるから
苦しむのじゃ。今までの人生を完全に捨て新しい人生を生きれば
よいではないか。さあ頭をこっちへ」「...」立ち上がる少年。
坊主「むっどこへ行く?」「..」「恋人の所へ会いに行くつもりか!
よさんか!お主は今川で流されて行方不明の人間じゃ!うろつくでない」
「人目につかねーよーにするって!」「まだお主はその体に定着して
おらんから、三日を過ぎると動けなくなるかもしれんぞ!」「!」
「三日間じゃ!三日以内にはわしの寺へ来い!ほれあそこに
屋根が見える。あれがわしの寺じゃ」「三日だな?わかった!」
「いずれの場合を選ぶにしても必ず戻れ!よいか!」「わかった!」

翌日、学校。校長「ニュースや新聞などですでに知ってる事と思うが
端島先生が昨晩、事故で亡くなられました」
生徒「泳げないのに飛び込んだって話だ」「へえーっそれでも事故って
いうんだ」先生「まあ、立派な先生でしたよね、最期だけは少なくとも」
他の先生「そういう言い方は..」

授業開始。窓からのぞく少年(理都だ)
理都「しっ..静かに!授業を始めます!端島先生に代わって私がこの
クラスの生物を教えます。静かに!」少年(...)授業が始まる。
少年(..おい、なんだあ理都のやつ..いつもとたいして変わんねー調子で
授業してんじゃねーか。あんな泣いてばっかの奴が..全然気落ちした
様子がねえ。安心した..と言いたい所だが、実の所さびしーぜ)
ネコの所へ。少年「よーう。おーっ生きてたか、エサ持ってきて
やったぞ、あれ?」エサが満杯に有る。「誰かがエサ持って来て
くれたみてーだな」(思いかえせばプロポーズのときだって..
理都は泣いただけで、返事は聞いてなかった様な気がする..)

理都の家。理都「ただいま」少年(理都にとって俺って..
そんなでもなかったのかなぁ..)2日目。理都「行ってきます」
母「あら理都、どこ行くの?」少年「ん?理都..」雨が降っている
少年「出かけたのか?日曜だってのに雨の中一体どこへ..!?」

校舎裏。理都「これは..!?」ネコのエサ入れがひっくり返っている
理都(ネコの毛が散らばって..他のネコとケンカしたんだわ、ここで)
木の上にネコが。理都「そんな所に逃げて..降りられなくなったのね」
ゴミバケツを台にして木によじ登る理都。少年「いた!(理都..!)」
理都「お願い..来て、あなたを助けたいの..」
(端島先生が好きだったあなたを守ってあげたいの!)
少年(理都..そうか..あいつにエサをやってくれてたのも..)
理都(今の私にはこんな事しか出来ないから...端島先生のために
私はもうこんな事しか出来ないから..!)ネコが理都の手にしがみつく。
理都(よかった..あなたにまで何かあったら私..もう..)「あっ」
足を滑らせる理都!少年がしっかり抱きとめる!
少年「理都!どーした!しっかりしろ!うげすげえ熱じゃねーか!
こんな体で雨ん中出たのかよ!バカヤロウ、ムリしやがって!」
理都を背負う少年。うわごとで理都が「先生..」と言う。
足下にはネコ(るりるり)がほほをすり寄せている。
.....おれはここにいる....

理都の部屋。理都「..?私..」母「理都..!夜も眠れないほどつらい事が
あったんだから..学校を二〜三日休む位すれば良かったのに..やせがまん
するから..学生さんがうちまで運んできてくれて、さっきまでついてて
くれたのよ」「うちの生徒?」「さあ?」
理都(私...先生におぶってもらう夢、見てた...)

寺、夜中。少年「決めたぞじーさん!起きろよ、じーさんきけよ!」
坊主「な..何事じゃ!!三日以内に寺に来いとは言うたが
今、何時だと思うとる!非常識な!むっ」学生証を見せる少年。
坊主「何じゃその手帳は?『鳴神源五郎、風和高校1年4組』..?」
少年「そう、こいつが持ってた生徒手帳。つまりこれが俺の名前だ
俺は端島の記憶を捨てずに「鳴神源五郎」の人生を生きる事にした!」
坊主「そ..それは考えなおせ!お主はもはや彼女にとって見知らぬ他人!
どんなに想い続けてもお主は正体を明かせんのじゃ!もとの様な
関係には戻れん!覚えておってもつらいだけじゃ!」

端島(源五郎)「かまわねーさ。もう一度はじめから理都と
恋をするんだ..こんなスゲーことないじゃん!」
坊主(そ..それは..!そ..それはお主が考えておるよりずっと大変な
事じゃぞ。じゃが..お主が自分で決めた事じゃ。勝手にせい!)

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