”そして..日本武道館は人波に埋まった...”
〜武道館 ジョーの控え室〜
丹下「おいジョー、報道関係者が試合前のお前の感想を聞きたいって。どうする?
おい、ジョー記者さん達が..」窓から外を見るジョー。
ジョー「すまねぇが1人にしてくれないか」
丹下「ん..じゃあまー、わしが代わって適当に返事しとくわ、うん。西!皆も
気をきかせろ!」全員が控え室から出ていく。
窓を閉めるジョー。そこに葉子が入って来る。
葉子「こんばんは、矢吹君。散々逃げ回ったけど、この武道館の控え室に
やって来ない訳にはいかなかったわね」座るジョー、近付く葉子。
葉子「矢吹君」ジョー「ん」葉子「リングに上がるのはお辞めなさい」
ジョー「へっ冗談キツイなお嬢さん」葉子「手紙に書いたあなたにとっての
もう1つの事実というのを言います!...!」(葉子ためらう)
ジョー「どうした、早く言えよ」
葉子「矢吹君、あなたの体はパンチドランカー症状に蝕まれています。
しかも相当重症の..これは医師会の権威ドクターキニスキーの診断で有り
厳然たる事実です..」 立ち上がるジョー「だからどうした」
葉子「えっ..!だからどうした..そう、知ってたのね」
ジョー「自分の体だもんな。だいぶん前から薄々な」
葉子「知ってるんならなおさらだわ!今すぐ引退を表明して!」
ジョー「今月は力石の墓参りをしたのかい?」
葉子「あなたもカーロスの様になりたいの?あの可哀想なカーロスリベラの様に」
ジョー「よしなよ、カーロスの事はよそうや。な?」
葉子「今さら..今さら試合を中止するとなれば当然莫大な違約金をチャンピオンや
主催者達に支払わなければならないでしょう。でも、そんな事はあたくしが
全て責任を持ちます!だから..!」
ジョー「もうすでにポンコツだからとか勝ち目が有るとか無いとかそんな事じゃ無い
それはあんたもよーく知ってるハズだ。俺はそうやってここまで来た!
そしてこれからもだ!」 葉子「矢吹君..」
ジョー「せっかくだが出てってくんないか。ここは女の来る場所じゃねえ」
葉子「矢吹君...」ジョー「あんたが出てかないなら俺が出てく」
葉子「待って矢吹君!お願い!待ってちょうだい!(震えて涙が出る)
頼むからリングに上がるのだけは止めて..一生のお願い...」驚くジョーだが
そのまま去ろうとする。扉の前をふさぐ葉子。
葉子「好きなのよ、矢吹君!あなたが!!」(言って2人共驚く)
葉子「好きだったのよ..最近まで気が付かなかった..
お願い、私の為にリングへ上がらないで..この世で1番好きな人を、
廃人となる運命の待つリングの上へ上げる事は絶対に出来ない!」
扉の向こうの丹下「おい、ジョー!そろそろ出番だ!どうした開けろ!ジョー!」
葉子の肩をつかむジョー「リングの上でよ、世界1の男が俺を待ってる。
だから、行かなきゃな..」葉子「矢吹君!」ジョー「有難う..」
ジョー、葉子をそっとどけて扉を軽く開ける。
丹下「何やってんだよ、中に誰か居るのか?」ジョー「いや、行こうぜ」
外へ出て扉を閉める。葉子「矢吹君..!」ひざまずく葉子。
〜試合開始!〜
襲いかかるジョー。丹下「あの馬鹿何やってんだ全然ワシの言う事聞いて無いじゃねえか」
アナ「矢吹ラッシュ!ゴングと同時に嵐の様な先制攻撃です!打ちます打ちまくります矢吹
ホセほとんどスウェーあるいはブロックでかわしていますが矢吹はまるでこの第1ラウンド
が最終ラウンドで有るかの様に一方的な攻勢です!」反撃開始。丹下「ジョー!」
アナ「今度はチャンピオン反撃、矢吹危ない!しかし矢吹出る、再び出る!」ゴングが鳴る
丹下「ジョー!今のあの攻撃、あれは格下の相手を一気に攻め落とす時のやり口だい!
一体誰と対戦してると思ってんだよ!次からでも遅くはねぇ、わしの言う通り
スタミナ温存のペースに切り代えるんだ!でねえと恐ろしい結果になるぞ、
おい聞いてんのかよ」ドヤ街の子供「フレ、フレ矢吹!」”セコンドアウト!”
ジョー「西、マウスピース」西「あいよ」飛び出すジョー。丹下「ジョー!」
〜第3ラウンド〜
何度も襲い掛かるジョー、よけられる。丹下「あの野郎バカの1つ覚えみてーに」
西「おっちゃん、ホセがあんまり動かん様になりましたぜ」
丹下「あれがホセならではの防御テクニック見切りってやつだ」西「見切り?」
丹下「無駄な動きを抑え最小限紙一重の差でジョーのパンチをかわす、
並の選手にゃとても出来ねえ、ホセならではの高等技術よ。あれなら自分の
体勢は崩して無いからどっからでも反撃に出れる」コークスクリューで倒れるジョー
丹下「うう、決まった..そうかジョー、これ程のチャンピオンに万に一つの勝ち目もねえ
そいつを知ってせめてもの玉砕戦法かい。なる程、お前らしかったよ」リングに
入ろうとする丹下を西が止める。西「おっちゃん!何言っちまんねん、まだや!
まだジャー立ちまっせ!」審判「7、8やれるか、止めるか矢吹!」無視して進む。
丹下「無駄だジョー!立つんじゃねえ殺されちまうぞ!」
ホセ側のセコンド「ヘイホセ!フィニッシュ!フィニッシュ!」
カーロスが立ち上がる。「ヘイジョー!ヤブーキ!」ゴングが鳴る。
ホセ(ジョーヤブキ..本当に彼はジョーヤブキなのか?あのハワイで会った..
残念だが期待はずれのチャレンジャーだった。)ゴングが鳴る。
〜第4ラウンド〜
カーロスが前に出て来る。カーロス「ジョーヤブキ、ベリーベリーストロングマン!」
気を取られたホセの顔面に初めてジョーのパンチが当たる!
アナ「おお矢吹のパンチが当たった!何故か一瞬ホセが目を放した瞬間を捕らえました」
何度も当たる。ホセセコンド「ノー!ホセ、ノー!」
ホセ(何故カルロスがこんな所に!何という事だ!ええいしつこいスクラップめ
もう遊びはこれまでだ!おとなしく寝てもらおう!)ジョーを倒す。ホセ「ジエンド」
だが立ち上がるジョー。(いけねえや、右目がかすんできやがった。でもよ、どのみち
こっちはやけっぱちのパンチドランカーさ)「このやろう!」ホセの顔面をヒット!
ホセ(そんな馬鹿な!紙一重でパンチをかわしたはずなのに。まただ!)
ジョー(モロだ、モロに俺のパンチが当たりやがる!ようし!)
アナ「矢吹凄まじいラッシュ!今まで当たらなかったのが不思議な位であります!
当たります!矢吹のパンチ、ホセの顔面を捕らえる!矢吹ここへ来て
やっとエンジンがかかったか!?」ゴングが鳴る。
ホセセコンド「ホセ!どうしたんだ一体、こんなに一方的に打たれた君を見るのは
初めてだ」ホセ「カーロスだ、リングサイドにカーロスがいる」
ホセセコンド「何でこんな所に。OK仕方が無い、リングサイドに気を取られたなら
いくら君でも打たれてしまうな。OKOK次のラウンドで KOだ!何しろ君は
人一倍冷静な男だ!カーロスの事は忘れていつもの君に戻るだろう」
ホセ(確かに最初はカーロスを気にしてパンチを受けた。だが後半は違う
私の最も得意とする防御を破られたのだ。よけてもよけても矢吹のパンチは
俺を捕らえて来る。今だかつてこんなに、こんなに俺の防御をコケにした男は無い
壊れているなんてとんでも無い!彼はジョーヤブキはまだ生きている!)
丹下「すげーじゃねーかジョーたまげたよ。お前って野郎は一体どうなってやがんだい!」
〜第7ラウンド〜
アナ「ホセ、ダウン!」西「またホセがダウンや!」
ホセ(そうか、そうだったのか)急に空を切るジョーのパンチ。
街の子供「あらら、ジョー兄のパンチが急に当たんなくなっちゃったぞ」ゴング鳴る
丹下「ハハ、どうした?後半少し大振りだってたぞ、少し打ち疲れか?」
ジョー「右目がよ」丹下「あ?」ジョー「右目がもうほとんど見えねえ」
丹下「な、何だと?」ジョー「ヘヘ、お陰でパンチの方向が妙にずれてな。
かえって上手い具合に当ってくれてんだが、俺もビックリしてたが
やっこさんもブったまげてたよ。でももうダメだ。あいつそれに気付いちまったよ
俺の死角へ死角へと廻り始めた。」丹下「目か」ジョー「そう情けねー面すんなよ
見えねーのはおっちゃんと同じ片っぽだけさ!何とかなる!大丈夫だ!」
〜第9ラウンド 逃げ出す葉子〜
ホセに殴られ続けるジョーを見て葉子は立ち上がり、外へ出る。
リムジンに運転手。ラジオ放送を聞いている
ラジオ「あーっと矢吹ダウン!崩れる様にマットにひざをつきました!」
運転手「ああ、お嬢さん」葉子「出して、車を、早く!」
運転手「はあ?」葉子「ラジオを、ラジオを切って!」運転手「は、はい」
発車。運転手「お屋敷の方ですか、それともジムへ?」
葉子「..ラジオを付けて」ラジオ「矢吹は試合をまだ捨ててはおりません、しかし
顔面は血みどろであります!必死の応戦!チャンピオンの右コークスクリューパンチ!
矢吹グラっと来ました!しかし我慢してます、ダウンはしません!おっと今度は
矢吹反撃!必死に反撃であります」葉子「消して!消して下さい!..車を..
車を武道館へ戻して下さい。大急ぎで」運転手「はあっ?」
葉子(許して矢吹君、これからという時に逃げ出すなんて..そう、今までの私は
いつもそう。でももう逃げないわ、決して降りたりはしない!矢吹君、
始まるのよね、これから何もかもが!そうよね?)武道館に戻る葉子。
〜休憩 ホセのあせりと葉子の応援〜
トレーナー「ヘイカバレロ、チャンピオンの様子がおかしい!」
ホセ(ジョーヤブキ、彼は一体どういうつもりなのだ!死んだりする事が恐ろしく
無いのか?彼には悲しむ人間が1人も居ないのか?私は、私は違う!
私は恐ろしい!私の愛する妻と子供達が居るのだ!彼は違うんだ!
私などとはまるで別のタイプの男なんだ!)
丹下「ジョー、もうわしの忍耐も限度を超えた。いいか、もし次のラウンドで
ちょいとでもよろけようものなら迷わずこいつ(タオル)を放り込むぞ!」
タオルを取って外へ捨てるジョー。丹下「何すんだよ!」
タオルが葉子の足下へ。丹下「ああお嬢さん、すみませんそこのタオルを..」
葉子、タオルを拾う。丹下「どうもすいません」葉子、タオルを捨てる
葉子「もう少しじゃないの矢吹君!頑張るのよ!あなたがあの世界一強い男と
どこまで立派に闘い抜くかこのリングの下からしっかりと見せてもらうわ!
さあいいわね?力一杯打つのよ!渾身の力を込めて悔いの無い様にしっかり」
丹下「お嬢さん、そんな無茶な」葉子「頑張るのよ!私見ている!」
〜第13ラウンド 反則するホセ〜
アナ「さあ残す所13、14、15ラウンド!いよいよ大詰めです!
矢吹ゆっくりと前へ出ます、前へ出ます。」打たれるジョー
葉子「矢吹君、打ちなさい!力いっぱい!」ジョー、何度も打ち返す。
ホセ、恐ろしくなり、ついにヒジ打ちを出す!丹下「は、反則だ」
審判がホセの抱え込みパンチを止める。「減点1、減点1」
ホセ(反則..減点..?)ゴングが鳴る。客「汚いぞ!チャンピオン!」
ホセセコンド「見ろ、チャンピオンが鳥肌を立てている!」
丹下「どうだジョー、体調は?右の目はまだはっきりしねーか?」
〜第14ラウンド〜
ホセ(私は..私は一体誰と闘っているんだ?ここに居る男は誰なんだ?誰だ?
ジョーヤブキ、いやそんなハズは無い、彼は私の数限り無いパンチをあび
とうに死んでいるはずだ。でも現にこうして向かってくるこの男は..
打っても、打っても向かってくるこの男は..ああ私は今恐ろしい夢を見ている
おそらく私はかつてジョーヤブキと言われたボクサーの幻と、幻影と闘っているのだ
立てるはずの無い幻などに私が!)ゴングが鳴る
〜ラストラウンド〜
アナ「さあ、最終ラウンドのゴングが鳴りました!泣いても笑ってもこのラウンドで勝負が
決します!」ホセ(勝つ!例え相手が幻影であったとしても!私はキングオブキングス)
アナ「ああ、ホセ突進!猛攻です!コークスクリューの連打!あーっと矢吹ダウン!
たまらずダウン!」葉子「矢吹君しっかり!!」顔を上げるジョー。
葉子「そう、立つのよ今までの様に何度も何度も!」立ち上がるジョー。
葉子「そう、そうよ矢吹君!」攻めるホセにクロスカウンターが命中!
さらにトリプルクロスを命中させるジョー。倒れるが立ち上がるホセ。
ゴングが鳴る。審判「ストップだ!試合終了!」
〜真っ白に燃え尽きる〜
ジョー(燃えたよ..真っ白に燃え尽きた..真っ白によ..)
ジョー「..おっちゃん、おっちゃんよ」丹下「ん?んん何だ?ジョー」
ジョー「グラブ、はずしてくれや」丹下「おお、よしきた」
ジョー「葉子は、葉子はいるかい?」葉子「ここよ、ここに居るわ矢吹君」
ジョー「こいつを..こいつをよ..もらってくれ。あんたによ..もらって欲しいんだ」
ジョーのボクシンググローブを受け取る葉子。目を閉じるジョー。
アナ「さあ、判定はどちらか?」審判「ホセー!」
アナ「ホセです!判定はホセ!日本の矢吹、善戦空しく敗れました!」
ホセの手をあげるが、ホセの髪が白くなり、老人の様になっている
丹下「惜しかったな、ジョー。しかし良くやったぞ。わしはもう何も言う事は無い
本当にようやった!..?ジョー!?」下がる丹下、審判達が集まる。観客が総立ちに。
驚いた表情で、ボクシンググローブを落とす葉子。
真っ白に燃え尽きたジョーが椅子に穏やかに眠っている。
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